【絶対に面白い!】おすすめ小説まとめ~お気に入りを見つけよう~

実際に読んでみて面白いと感じた本を紹介しています。ミステリーから恋愛物まで多ジャンルをのせたいと思います。

『明日の記憶』 荻原浩 【あらすじ・感想】

あらすじ

 50歳になった広告代理店営業部長の佐伯は自分の記憶力、体調に異変を感じる。過労のせいだと自分に言い訳を続ける佐伯だったが、訪れた病院で若年性アルツハイマーだと診断される。

 仕事でも重要な案件を抱え、一人娘は結婚式、出産を控えていた。

 自分だけは進行が遅いのではないか、まだ大丈夫だ、と考える佐伯だったが、家族との大事な思い出、記憶までもが病によって徐々に奪われていく。

 そんな中でも、佐伯は自身を取り巻く様々な人々の温かさに支えられている。

 悲しくも温もりのある山本周五郎賞受賞作。

 

感想

 若年性アルツハイマーという、現代では珍しくない病気を扱った作品であり、数十年後の自分も同じ状況に置かれるかもしれないと重く受け止めました。

 フィクションではありますが、主人公佐伯の言動に非常に感情移入してしまいました。診断を受ける前に、自分の異変に気が付き始めるのだが、ちょっとド忘れしてしまっただけだ、働きづめで疲れているだけだ、もう少ししたら休もう、と自分に言い聞かせる。診断を受けて愕然とするが、自分はまだ大丈夫だと考え、ミスをした際にもいちいち自分に言い訳をして、現実から目を背けようとする様がとても痛々しいとともに、もし自分が同じ状況に置かれれば、きっと佐伯と同じことを考え、するのだろうと感じました。 

 また夫の病に日々恐怖、辛さを感じているはずの妻枝実子が気丈に振る舞う様子に胸をぐさぐさと刺されるような気がしました。佐伯は辛さは見せず、明るく接する妻の胸中は察しつつも、とても助けられたのではないかと思います。

 意地の悪い人物も出てきますが、それ以上に多くの温かい人々に支えられています。佐伯の人柄がよいからこそ、そのように周りの人に恵まれているのだと思います。

 非常に重いテーマを扱っていますが、ただ暗い、辛いだけではなく、人のやさしさ、気づかいに触れることができる作品です。

 切ないけれど懐かしくほほえましいラストシーンは思わず涙が出てしまいます。

 心が閑散としている人、最近退屈だ、辛いと感じている人にはぜひ読んでみてほしいです。